記憶を料理に、記憶を道具に。
Part.1

MOZAMBIQUEが大切にしているのは、ただ便利なだけではなく、使うほどに記憶が重なり、長くそばに置いておきたくなる道具であること。今回訪ねたのは、富士北麓の自然や幼少期の記憶までを料理に落とし込むシェフ。兄弟で育った土地の記憶や、母親がつくってくれた料理、自分たちにしかない感覚をコースに織り込むというその考え方は、体験とともに価値を深める道具づくりとも響き合う。今回はSTEKAを使ってもらい、料理を考えるときに大切にしていること、この土地で料理をする意味、そしてこの道具のどこに可能性を感じたのかを聞いた。

オーナーシェフ・堀内浩平

nôtori
nôtori は、富士山の春のシンボル「農鳥」に由来する、山梨県忍野村のレストラン・オーベルジュ。「兄弟で紡ぐ富士北麓キュイジーヌ」を掲げており、地元山梨の食材を軸に、この土地の自然や記憶を料理と滞在体験の両方に落とし込んでいる。
※nôtori は、富士山の春のシンボル「農鳥(のうとり)」に由来する。富士山の山梨県側で、雪解けが進む春先から初夏にかけて山肌に現れる、鳥のような残雪模様を指す。 

山梨県南都留郡忍野村忍草3192-8
インスタグラム:@notori_fuji

オーナーシェフ 堀内浩平
都内での10年の修行を経て、30代で渡仏し「ラ・グルヌイエール」で腕を磨く。帰国後、都内のレストランでシェフとして勤務していた間に、国内最大級の料理コンペティションRED U-35 2021 にてグランプリ(RED EGG)を受賞。その後、故郷の富士北麓に戻り、フリーランスでの活動を経て、現在に至る。

前編|富士北麓という土地で、料理をつくるということ

富士北麓の自然や記憶を、料理としてどう立ち上げるのか。nôtoriのシェフに、料理人を目指したきっかけから、料理を考える時に大事にしていること、この土地で料理をする意味を聞いた。

—まず、料理人を目指したきっかけから教えてください。

もともとすごく太っていて、食べることが好きだったのもありますし、この辺って今は多少レストランが増えたんですけど、子どもの頃はほとんどなかったんですよ。
小学校5、6年くらいの時に、森の中にイタリアンのお店ができて、家族で行ったんです。その時に食べたピザが丸じゃなくて四角だったんですよ。「え? ピザって丸いんじゃないの?」って。しかも“ピザ”じゃなくて“ピッツァ”って言ってる。「なんだこれは!?」って衝撃を受けて、そこからイタリアンのシェフになりたいと思うようになりました。

ただ、専門学校の先生に「フレンチの技術はイタリアンに応用できるけど、その逆は難しい。だから最初はフレンチから学んだほうがいい」と言われて、フランス料理を勉強することにしました。

—小さい頃から、自分でも料理していましたか。

小学生くらいの頃から、テレビで見て美味しそうだと思ったものを真似して作ったりしていました。
あと、中学生の頃はカレーにすごくハマってましたね。

今みたいにスパイスカレーが流行っていた時代じゃなかったので、いろんな調味料を入れて試していました。とはいえ中学生なので、自分なりの試行錯誤なんですけど(笑)。普通にルーを入れるだけじゃなくて、「今日はチョコレートを入れてみよう」とか、「ソースを入れてみよう」とか、「フルーツを刻んで入れてみよう」とか。何かでちゃんと学んだわけじゃなくて、テレビで見たものを参考にしながら、「これ入れたら美味しいんじゃないか」って感覚でやっていました。

—料理のアイデアは、どういうところから生まれますか。

いろんなところから来ますね。
もちろん、食材からインスピレーションをもらうこともあります。食材を食べた時に感じるものと、自分が過去に食べてきた記憶みたいなものがつながって、料理になることもあります。

あとは、日々の風景ですね。この辺に住んでいて、「富士山きれいだな」とか、「この自然いいな」とか。森の中を歩いていて見える景色や、ちょっとした自然の造形を見て「きれいだな」と感じることが、そのまま料理に反映されることもあります。
いろんなところに散らばっている感覚や記憶が、ある瞬間に急につながるイメージですかね。

—トレンドは意識しますか。

トレンドはあまり意識していないです。
でも今って、意識しなくても情報がどんどん入ってくるじゃないですか。SNSを開けば、新しい料理やビジュアルが次々流れてくるので、自然と影響を受けていると思うんです。

自分では「引っ張られていない」と思っていても、器や写真の見せ方も含めて、きっと無意識に影響されている。だからこそ、「自分も影響を受けている」という感覚は持っておきたいと思っています。

「自分は純粋に良いものを作っている」と思っていても、あとから見返すと「ああ、これ流行りに影響されてたな」と思うこともありますし。
ただ、そこを考えすぎると、今度は何も作れなくなってしまうんですよね。「とにかく新しいことをしなきゃ」という気持ちだけになってしまうというか。

そうなると美味しさとか、お客さんの存在が置き去りになってしまう。もちろん、“まだないもの”への憧れはありますけど、そこに全振りはしたくない。なるべく自然体で、自分が本当に美味しいと思えるものを作りたいと思っています。

—料理で大事にしていることは何ですか。

僕の料理って、見た目だけだと「美味しくなさそう」とか、「すごく変わったことをしてる」と思われる部分があると感じるんですけど実際に食べた時に「あれ、全部ちゃんと美味しいじゃん」って食べた人に思ってもらいたいんですよね。

なんだかんだ言って、僕はいろんな人に美味しいと思ってほしいんですよ。若い人でも、年配の方でも、日本人でも海外の人でも、みんなが「美味しい」と感じられるところを目指したい。

なのでお客さんの食べるペースや嗜好性などを会話や食べる様子で感じとって
「この方は少しだけ小ポーションにしたほうが喜ばれるかな?この方は逆にお肉を少し大きめにカットしよう。この方には細かく切ったほうが食べやすいかな?アルコール好きだからほんの少しだけ塩味を強くしよう。仕上げの油の量気持ちだけ減らそう」とか

同じ料理を出しているように見えて、実は細かく調整しています。

いろんな人に楽しんでもらいたいし、「美味しい」と思ってもらうことが大前提なんです。
もちろん、自分の表現や哲学みたいなものもありますけど、それを前に出しすぎたくはない。興味がある人には話しますし、「美味しいものを食べられればそれでいい」という人に、無理に細かく説明する必要もないと思っています。

—料理のビジュアル面では、どんなことを意識していますか。

自分が見て「きれいだな」と思ったものが自然に反映されている部分はあります。
その上で理想は、料理を見た時に「あ、この人の料理だな」と第三者がわかることですね。

いろいろ食べ歩いている人なら、「この料理は知らないけどなんとなくこのシェフっぽいな」と感じてもらえるようなものにしたい。

ただ奇抜なだけじゃなくて、ちゃんと自然を表現したいと思っています。富士北麓という土地の空気感みたいなものを、なんとなく感じてもらいたいんですよね。

僕の料理は細かくスケッチして再現するタイプではなくて、もっと抽象的というか。見た風景をそのまま料理にするんじゃなくて、自分の中で一度噛み砕いて、少しぼやかして落とし込むイメージです。
食べた時や見た時に、「この土地っぽいな」とか、「この人っぽいな」と感じてもらえたらいいなと思っています。

—山梨、富士北麓という土地で料理することには、どんな意味がありますか。

山梨県という限られた土地の食材だけで勝負しようとすると飛び抜けたポテンシャルを持つ食材ばかりではないんです。
だからこそ、「どうやって自分なりに美味しさを引き上げるか」が大事になると思っています。

比較的地味な食材を使う場合、他の食材との組み合わせや、意外性を重ねながら、美味しさを引き出していく必要があると思ってます。

常々シンプルに料理したいと思っています。野菜なんて焼くだけでも十分美味しい。でも、それだけでお客様が感動するかと言われると、また違う。
じゃあ、その野菜の良さを消さずに、どうしたらもっと美味しく感じてもらえるかを考える。その結果として、自然と手間が増えていく感覚です。

例えば人参だったら、焼いたもの、ピューレにしたもの、揚げたもの、生のものなどを一皿の中に入れる。同じ人参でも表現を少しずつ変えることで、人参の凝縮感や旨味が際立って、その食材自体の美味しさをより強く感じてもらえるんです。

—東京で山梨の食材を使うのと、この土地で使うのとでは違いますか。

全然違いますね。
東京にいた頃も、将来を見据えて山梨の食材を使っていました。でも、実際にこの土地に住むと、生産者との距離感も変わりますし、自分でハーブやキノコ、山菜を採りに行ける。その違いは大きいです。

東京で山梨の食材を使っていた時は、野草とかキノコとかどこか「珍しい食材を使っている」という感じになりやすかった。でも、ここではその辺に普通に生えているものなんですよ。

だから、自然とのつながり方が違うという感じです。ここで採ったものをそのまま料理に使うと、「珍しい食材の料理」ではなく、この土地に自然に溶け込んだ料理になるんです。

地方から送られてきた食材を東京で表現する“自然”って、どこか少し嘘っぽさがある。でも、ここで自分が採ってきたものをそのまま皿に乗せると、料理が自然の中に存在している感覚になるんですよね。

—nôtoriならではの違いは、どこにあると思いますか。

最近は地方のレストラン、いわゆるローカルガストロノミーもかなり成熟してきています。地産地消やその土地の伝統料理、郷土料理を再解釈することも、今では当たり前になっています。

その中で他店との違いは、やっぱり兄弟でやっていることだと思います。

僕ら兄弟がこの土地で育ってきて、もともとある食材や文化を料理に反映するというのは大前提にあって
その上で、子どもの頃の記憶とか、母親が作ってくれた料理とか、僕ら兄弟にしかない感覚や思い出が料理やドリンクに入ってくる。

それぞれのお店が風土や文化でその土地を表現している中で、さらに僕らの場合は“兄弟にしかない土地の記憶”を料理に落とし込んでいるのが違いかなと思います。

あと、料理だけじゃなくて、メニューやウェブサイト、内装など、細かい部分にも土地性や意味を落とし込んでいる。そういう積み重ねが、他のレストランとの違いになっている気がします。

—この場所で目指していることを教えてください。

この土地に来る理由って、やっぱり富士山だと思います。富士山を見て、写真を撮ってなんか美味しいものを食べて帰る。それが定番です。

ただそうじゃなくて、「nôtoriに食べに行くこと」が目的になってほしい。

今はまだ、「富士山を見に来たついでに、近くに良い店があるから行こう」という流れが多いんですけど、最終的には「nôtoriで食べたついでに富士山を見て帰ろう」くらいになれたらいいなと思っています。

この土地には、もともと根付いている文化や記憶があります。そこにうちのお店が入ることで、富士山を見に来た体験や、この土地に来た体験そのものの没入感が深くなるのが理想というか、、

山梨の格をあげるというと少しおこがましいですが富士北麓の滞在の価値を少しでも底上げできたらいいなと思っています。

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