記憶を料理に、記憶を道具に。
Part.2
MOZAMBIQUEが大切にしているのは、ただ便利なだけではなく、使うほどに記憶が重なり、長くそばに置いておきたくなる道具であること。今回訪ねたのは、富士北麓の自然や幼少期の記憶までを料理に落とし込むシェフ。兄弟で育った土地の記憶や、母親がつくってくれた料理、自分たちにしかない感覚をコースに織り込むというその考え方は、体験とともに価値を深める道具づくりとも響き合う。今回はSTEKAを使ってもらい、料理を考えるときに大切にしていること、この土地で料理をする意味、そしてこの道具のどこに可能性を感じたのかを聞いた。

後編|「STEKAの可能性」
シェフがソテーパンで考えたこと。
一枚で焼く、煮る、蒸す。
今回のレシピ開発では、STEKAそのものが持つ特性をどう料理に落とし込むかが起点になっていた。レシピ構成、ノンコーティングの面白さ、家庭での使いやすさまで、堀内シェフに聞いた。
—今回のレシピを考えるにあたって、意識したことは何でしたか。
まず、この鍋の特性を活かす。というのはありました。
この商品が持っている特徴を把握した上で、「どういうシチュエーションで使われることが多いんだろう」と考えた時に、家でももちろん使うけど、アウトドアでも使うだろうな、とか。あとは、鍋ひとつで完結できる料理がいいんじゃないかなと思ったんです。
そこから、「どういう構成にしようか」と考えていく中で、フライパンとして“焼く”要素を活かした料理を一品作ろうとか、取っ手が外れてオーブンに入れられるから、オーブンで長時間煮込める料理を作ろうとか。蓋付きだから蒸し料理もできるな、とか。
そういう、このフライパンならではの使い方が活きるものを、一皿ずつ料理に反映していきました。
—レシピ全体の構成も、その考え方に沿っているんですね。
そうですね。焼く、蒸す、煮る、ですね。
春野菜のエチュベは蒸し料理ですし、シュークルートは煮込みと蒸しの中間。名水赤鶏ときのこの猟師風は煮込み料理で、焼く料理として鱒のミキュイがある。
それぞれの特性をちゃんと使いながら、野菜料理、お肉料理2種類、お魚料理1種類というバランスにもしています。
やっぱり、人によって好きなものも違うので、野菜、肉、魚を全部入れようというのは意識しました。
—家庭向けのレシピとして、意識したことはありますか。
本当は、エチュベはアサリを入れなくてもいいかなとは思ったんです。
でも、家で作ることを考えてアサリを入れることで出汁が出て、ぐっと美味しくなりやすいかなと。
普段料理をあまりしない人が作ることも考えると、どうしても出来上がりに差ができてしまう内容はやめようと思いました。ちょっとしたことで水っぽくなったり、塩味が決まらなかったりすることがあるので
「だれが作っても美味しく作れるレシピ」という前提で考えた時に、今回はアサリを入れて、味の着地点がブレにくいようにしようと思いました。
多少味が薄まっても、アサリが入ることで旨味が出て、薄く感じづらくなる。野菜だけだと、味がぼやけた時にそのまま“薄い料理”になってしまうので。
そういう意味で、「多少ブレても美味しくなりやすい」着地点の幅を広げることは意識しています。
煮込み時間が多少長くなっても短くなっても美味しくできるとか、少し煮詰まりすぎても成立するとか、逆に火入れが少し甘くてもちゃんと美味しいとか。こういうレシピを作る時は、そういう部分をかなり考えていますね。
—鱒のミキュイは、少し難しさがあるともおっしゃっていました。
MOZAMBIQUEさんから、「少しハードルの高い料理を一品入れてほしい」という依頼があったので、そのメニューとして考えました。
鱒のミキュイは、フライパンの温度や、鱒の皮目の乾燥具合、身の厚さによって、火入れがかなり変わるんです。
例えば身が薄い場合は、強火で短時間に皮をパリッと焼かないと、皮が焼ける前に身に火が入りすぎてしまう。逆に厚みがある場合は、最初から火が強すぎると皮だけ焦げて、あまり火が入らない仕上がりになる。
だから、まずはフライパンと油をしっかり温めて、張り付かない状態を作る。その上で皮目を焼いていくんですが、焼きながら皮とフライパンの間に少しずつ油を流してあげたり、細かい温度調整をしながら、皮はパリッと、でも身には火が入りすぎないようにしていきます。
難しいのは、逆に弱火すぎてもダメなんですよ。
火が弱いと水分が蒸発せず、魚から出た水分で皮がふやけてしまう。だから、その辺りは少しテクニックが必要かもしれません。
ただ、一番やりやすいのは、事前に皮をしっかり乾燥させておくことですね。
切り身を冷蔵庫で保管する時皮の部分だけラップをせず、周りだけ覆って一晩冷蔵庫に入れておく。そうすると皮目だけ少し乾燥して、短時間で皮がパリッとなり張り付きづらくもなる。
たぶん、このレシピで一番失敗しやすいのは、焼き始めた瞬間に皮が剥がれて、皮だけフライパンに残ってしまうことかもしれないですね。


—日本ではあまり馴染みのないソテーパンという形自体については、どう考えていますか。
フランスでは、こういうソテーパンって昔からよく使われているんです。肉を焼いたりもしますし。
うちは今はそこまで使っていませんが、クラシックなフレンチのお店ではかなり一般的でした。
日本だと、やっぱり普通のフライパンの方が主流かもしれません。
でもフランス料理では、焼くこともできるし、軽い煮込みにも対応できるので、すごく使い勝手がいいんですよね。フライパンより汎用性が高いイメージがあります。
—ノンコーティングだからこその良さは、どこにありますか。
今回の料理って、鶏も鱒もそうなんですけど、まず最初に焼く工程があるんですよ。
そうすると、鍋底にって焼き跡ができるんです。フランス語で“スュック”って言うんですけど、焦げではなくて、旨味の膜みたいなものですね。
これはメイラード反応によってできるもので、フランス料理では、そのスュックをこそげ取ってソースに使ったりするんです。
焼いている時に、小麦粉や肉の成分が鍋底に薄く付着して、それを水や白ワインで剥がして、煮込みやソースに溶け込ませる。そうすると、深みや香ばしさが加わるんですよ。
これはテフロン加工のフライパンだと、なかなか出せない美味しさです。
例えばスペイン料理なんかでも、あえて鍋底に少し焼き付かせて、その旨味を液体に移していく。単純なお肉の旨味とは違う、“おこげ”みたいな香ばしさが加わるんです。
そういう意味で、「少し付く」というのは、ノンコーティングならではの魅力だと思っています。
今回でいうと、特に鶏と鱒ですね。焼き付けた旨味をあとで剥がしてソースに溶かし込むことで、料理の美味しさにつながっています。
—STEKAの印象や、使ってみた感想を教えてください。
見た目は、まずメタリックでかっこいいなと思いました。
少し無骨さもあるんですけど、同時に洗練された感じもあって。アウトドアにも合うし、インテリアとして置いてあってもいいなと思います。
実際に使ってみると、レストランで使う調理器具と同じようにしっかり丈夫ですし、熱も下がりづらい。見た目ほど重くなくて、扱いやすいなと感じました。
やっぱり煮込み料理はやりやすいですし、取っ手を外せるのもかなり便利ですね。用途によって使い分けられるし、そのままオーブンにも入れられる。
あと、普通のスポンジで洗えますし、少し頑固な汚れでもナイロン不織布で落とせるので、扱いやすさもあると思います。
—最後に、道具を選ぶポイントと、昔から使っている道具があれば教えてください。
道具を選ぶときは、使いやすさとモノ持ちの良さを重視してます。
安価で耐久性の低いものを選ぶと、結局買い替える頻度が増えて、長い目で見ると逆に高くついてしまいます。そのため、長く使えるものを選んでいます。
包丁は、長いものだと8年は使ってます。